健康診断でメタボの烙印を押された人。そこまではいかなくても、ベルトの穴が少しずつ移動してきた人。こういった人は必ず、ダイエットと運動を勧められる。だが、都会で働いている人は日常的に運動をすることはなかなか困難な場合が多い。明日から始められるのはダイエットの方だ。
よく耳のするのが「先生、明日から米を抜きます」という言葉。肥満の元凶は米飯にあると誤解している方が少なくない。米飯を抜いて、ビールや日本酒を飲みながらおかずだけを食べたら、まず間違いなくよけいに太る。
体重の増減は家計の遣り繰りと似ている。家計は収入が支出を上回って黒字になる方が望ましい。体重の場合も過度の赤字は栄養失調となって死につながる。しかし、体重の赤字は終戦直後の飢餓の時代は問題になったかもしれないが、今皆が困っているのは過度の黒字の方だ。黒字になった分がすべてぜい肉となる。
支出を増やすことが困難となれば収入を減らすしかない。収入の単位はカロリーである。本格的に食事管理をするためには自分の食事が生み出すカロリーを計算する必要がある。正確な値を出せと言われるとかなりややこしいが、大まかに把握するのは簡単だ。
蛋白質1g=4kcal
脂質1g=9kcal
炭水化物1g=4kcal(ただしアルコールは7kcal)
この計算式を覚えていればよい。ここで注目していただきたいのは、もっともハイカロリーな栄養素が脂肪であるということだ。
そして必要カロリー量は、事務仕事に就いている成人男性で一日あたり約2600kcal、女性で2300kcal程度が適当と言える。先ほどの式を使って、三大栄養素をバランスよくとることが大切だが、ダイエットには脂肪摂取を控えることが最も効率的であることが分かる。
ダイエットには脂肪を取り過ぎないことが一番であることを知らせると、「分かりました。なるべく肉を食べないことにします」という方が少なくない。これもまた間違い。肉の主成分はタンパク質であり、十分にとらなければならない。摂取したとしても炭水化物と同等のカロリーしか産生しない。
なぜ脂肪を減らせと言われると肉を止めようと思うのだろうか。それは肉片の横には脂肪がくっついていることが多く、また、肉料理の多くが油を使った調理法によるからだろう。衣に包んで揚げたり、脂肪分たっぷりのソースをかけて食べたり。よく考えてみると、西洋料理は脂肪を食べさせる料理といってもよい。
純粋の動物性蛋白質だけのような脂肪分の少ない部分の肉を蒸したり茹でたりした料理は高カロリーではない。網焼きステーキや焼き肉などの調理法も案外カロリーを低く抑えられる。なぜならば、余分な脂肪分は皆網の下に落ちてしまうからだ。結構やばいのがシチューやカレーのような煮込み料理。汁に溶け込んだすべての脂肪分を食べることになる。
素材の肉選びも重要だ。肉と脂肪とがはっきりと分かれている肉の方がよい。脂肪の部分を除去しやすいからだ。この点、OGビーフやアメリカ牛は優れている。赤い肉の周囲に明瞭に分かれて脂肪層がついている。この部分を取り除けばかなりヘルシーな食材になる。
最悪なのが高級和牛。ビールを飲ませたり、エステマッサージをしたりの贅を尽くした生活を送らせて、肉質の中に霜降り状に脂肪が仕込まれている。こうなってしまうと、調理の段階で脂肪を取り除くことができない。
私はTPP推進論者ではないが、ことダイエットの観点から見ると、高級和牛を避けて、安い輸入牛肉を食べることをお勧めする。
戦時中、国民に耐乏生活を強い、全国力を戦争につぎ込むためのスローガンの一つに「ぜいたくは敵だ」があった。今一度、このスローガンを復活させよう。我々日本人が直面している生活習慣病との戦争に勝つために。
投稿日:2013年11月18日|カテゴリ:コラム
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