投稿日:2013年10月28日|カテゴリ:コラム

高濃度放射性汚染水の貯蔵タンクからの漏出がクローズアップされている。複数のタンクから汚染水が漏れ、張り巡らした防護壁を超えて海へと流出した可能性が高い。事故炉の対策を東電任せにするのみならず、しらっとした顔で全国の原子炉の再稼働を目論んでいた政権も、海外からの厳しい目に耐え切れず、急遽国が前面に立って事に当たると方針転換した。
汚染水問題がいつまでも取りざたされてオリンピック東京招致が実現できないと、アベノミクスに暗雲が立ち込め、ひいては消費税率引き上げにも支障が出てくるからだろう。所詮目先の利益が優先した小賢しさが鼻につく。
安倍首相は2020年オリンピック開催地最終選考会においてさらにもう一歩踏み込んだ。なんと世界中に「福島第一原発の汚染水は完全に管理されている」と公言したのだ。この一言がオリンピック・パラリンピック東京招致の決め手の一つになった。今安倍さんはこの最終選考会が後2か月遅れていなくてよかったと胸を撫で下ろしているだろう。
なぜならば、その後の単純な操作ミスや台風による大雨によって、立て続けに汚染水の漏出が起きたからだ。もしIOC総会の前に一連の事故が起こっていたならば、東京招致は実現しなかっただろう。
メルトダウンした原子炉の後処理に対して国を挙げて臨むという姿勢は当たり前だ。むしろ遅きに失したと言える。では、国が乗り出せば、増え続ける高濃度放射性汚染水の完全解決が得られるのかと言えばそんなことはない。汚染水を完全に封じ込めることなんてできるはずがないからだ。
ボルト留めしたタンクが数年で水漏れることは小学生だって想像できる。今回漏出が判明したタンクは出来損ないだったのだろうが、どんな素晴らしい出来上がりのタンクだって数十年にわたって水漏れなしにすむはずがない。
あまり取り上げられていないが、さらに大きな問題がある。それは作業が2年半もの長期間に及ぶために、高濃度放射線に犯された福島第1原発で作業にあたっている作業員たちの被爆線量が基準値を超えてきている。このためにベテランの作業員が現場を離脱せざるを得なくなっているのだ。代わりに経験の浅い者が担当する。したがって、人為ミスの危険性が加速度的に高まっている。
福島第1原発が完全に安全な状態になるのは何十年も先のことだ。そのうちに何の知識も経験もない者たちだけで汚染水と戦うことになる。考えただけでも恐ろしい。
政府が考えている凍土フェンスによる封じ込めにしたって、何十メーターの深さの凍土壁を張り巡らせば完全に汚染水を封じ込められと考えているのだろうか。しかも莫大なエネルギーを必要とするマイナス40度の巨大冷凍庫を百年近く安全に保ち続けていけるとでも思っているのだろうか。いずれ海へ流出されてしまうのは目に見えている。さらにこれからも無数の台風が大雨をもたらす。小さめに見積もってもマグニチュード6~7クラスの地震もかなりの頻度で起こる。
自然の圧倒的なパワーの前では人間の営みなど屁の足しにもならない。桁が何十乗も違うのだ。また、放射能汚染の自然減衰時間の長さに比べて人の一生など瞬く間だ。それなのに所詮人間は自分の身の丈の範囲でしか実感することができない。だから、原子炉事故の深刻さとそれに対する手立ての困難さとを理解しえない。
そこが、為政者や電気屋たちの付け入るところだろう。「マイナス40℃だ、半永久凍土だといった目くらましの言葉に国民は根拠のない安心を得るに違いない」、「疑い深いやつがいたってそのうち死んでしまう」、「自分だって死んでしまうのだから最終的に責任なんてとらなく済む」とほくそ笑んでいる。
諸君、国が乗り出すからと言って努々安心するなかれ。国が取り仕切ったからといって、特段目新しい技術が考案されるわけではない。ただ我々の税金を投入できるので大掛かりな装置を作ることができるというだけだ。それどころか、この危機に乗じて一儲け企む官民の結託も予想される。「大きな災害は大きな儲けの場」と言うのが資本主義の本音だからだ。
そのうちに、「凍土壁の冷凍装置を維持するための電力を確保するためには一早く原発を再開させるべき」だなんてブラックジョークが真顔で語られるだろう。くわばらくわばら。

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