投稿日:2013年5月13日|カテゴリ:コラム

安部政権が打ち出したアベノミクスは現在のところ成功しているかに見える。しかし、いくら景気回復したといっても、今のところ円安とそれによって膨らんだ期待による株高が起きているだけで、実体経済はほとんど好転していない。
それどころか、増税、電気料金の値上げ、円安による原油や食料に代表される輸入生活必需品の軒並み値上げによって、庶民の窮状は激しくなるばかりだ。
アベノミクスがFX屋や株屋だけが浮かれるバブルの再現に終わらず、本当の景気回復に辿り着くかどうかは、安倍が第3の矢としている、成長戦略の成否にかかっているだろう。
この経済成長戦略の国家プロジェクトを推進するための有識者会議である産業競争力会議に、竹中平蔵がゾンビのように加わっていることが私にはとても気になる。景気を回復し、国民の暮らしを良くするどころか、格差を助長し多くのワーキングプアを生み出した張本人の竹中が、またもや権力に摺りついて日本経済の舵取りを担うということは、きわめて危険な匂いがする。おそらく、竹中はアメリカ資本の意を受けて、バブルで膨れる日本の市場を国際資本の草刈り場にしようと企んでいるに違いないからだ。

閑話休題、経済成長のために検討されている多くのプロジェクトの中で、山中伸弥博士のiPS細胞の実用化は名実ともに我が国経済の立て直しにとって極めて大きな柱になる可能性を秘めている。iPS細胞の活用は広い分野で期待が寄せられているが、そのいくつかはすでに実用化の一歩手前まできている。薬の開発での活用はもうすでに進行中だが、再生医療の分野では、網膜や歯肉の再生が現実的になっている。
慶応義塾大学のベライチ博士らは、毛母細胞のもとになる細胞(前駆細胞)を人のiPS細胞から作成し、この細胞を毛乳頭細胞と一緒にして培養することによって、毛母細胞で働く遺伝子の活性を高めることを発見した。
さらに、この前駆細胞を、毛の形成を促すマウスの細胞と共に、毛を生えなくしたマウスの皮膚の下に移植したところ、毛の生えなかったマウスの皮膚に毛包と毛が形成された。この結果、人のiPS細胞の遺伝子が直接的にマウスの毛包を再生させることができることを証明した。この実験結果は、脱毛症(禿)の人の毛をiPS細胞によって復活させられることを意味する。

脱毛症は人類誕生以来、男性を悩ませ続けてきた問題だ。必要は発明の母というが、その結果、養毛剤や鬘が発明された。
養毛剤開発の歴史は人類史を相当昔に遡る。弛まぬ研究開発の結果、最近では非常に有効性の高い養毛剤が開発された。しかし、養毛剤はあくまで残った毛髪の活性を高めたり、瀕死の状態の毛包細胞を救うことしかできない。完全に姿を消してしまった毛髪を復活させ得る妙薬はいまだに存在しない。だから、人の悩みに付け込んで、怪しげな代物も後を絶たない。
鬘や植毛の技術の進化も著しい。昔の鬘と言えば黒い帽子を被っているだけのようなものだったが、最近の鬘や植毛法だと、風の強い日の外出や、汗をかくスポーツへの参加も楽々とこなせる。ただし高級外車を1台買えるほどの代金を支払える財力がある人だけが受けられる恩恵だ。2枚目で売り出したイケメン男優にとって、頭のたそがれは死活問題だから、1000万円も惜しくはないだろう。しかし、どんな高価な鬘でも、よく見ると本当の地毛との違いは現れてしまう。

iPS細胞による毛の復活の技術が確立されれば、人類の悲願のひとつである脱毛からの救済が史上初めて現実のものとなる。脱毛に悩む人には待ちに待った朗報だが、脱毛に悩む人を相手に利益を得てきた養毛剤メーカーや、A社のような鬘屋にとっては前途暗雲たる凶報だろう。

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