投稿日:2009年11月9日|カテゴリ:コラム

以前、ロス疑惑の主人公、三浦和義がアメリカで逮捕された時にこのコラムで2回にわたってご紹介した、「演技性人格障害」を復習しなければならない事件が起きました。関東地方を舞台に一人の女の周辺で次々と独り身の男性が不審死した事件です。
ロス疑惑は三浦の自殺によって、真実が藪の中のままで幕を閉じてしまいました。しかし私は今でもあの事件は「演技性人格障害」という特異なキャラクターの三浦による犯行であったと確信しています。
さて、今回の一連の事件の主人公である木嶋佳苗(34歳)が、9月25日に結婚詐欺容疑で埼玉県警に逮捕されましたが、その後、彼女の知人男性が相次いで死亡しており、偽装殺人の可能性があることが読売新聞によって報道されました。
今のところ分かっているだけで、木嶋と知り合って金を毟り盗られた男性は20人近くに及び、少なくとも6人の男性が不審な死を遂げています。今の時点では殺人容疑では逮捕されてはいませんが、逮捕の日もそう遠くはないと思います。
なぜならば、これだけ多くの男性が同一の女性と接点を持ち、しかも接触の手段がすべてインターネットの出会い系サイトで、皆多額のお金を彼女に渡していました。
80歳の男性の場合には焼死した当日にその男性のキャッシュカードを使って180万円が引き出されています。また、一連の不審死には練炭が用いられていて、同時期に木嶋がネット通販で練炭を大量に購入していた事実も分かっています。
さらに、彼女が所持していた睡眠導入薬と同一の成分が遺体から検出されています。状況証拠しかないとはいうものの、天文学的な確率での一致は、偶然とは言い難いのではないでしょうか。一連の不審死が木嶋佳苗の手による殺人であることは間違いがないと考えられます。

ここで「演技性人格障害」とはどういう人格なのか、もう一度おさらいしましょう。ICD-10によると以下の項目で特徴付けられる人格障害と定義されています。
1.    自己の演劇化、芝居がかった態度、感情の誇張された表出
2.    他人や周囲から容易に影響を受けるという被暗示性
3.    浅薄で不安定な情緒
4.    興奮および自分が注目の的になるような行動を持続的に追い求める
5.    不適切なほど誘惑的な外見や行動をとる
6.    身体的魅力に過度に関心をもつ
関連病象として自己中心性、自分勝手、理解されたいという熱望の持続、傷つきやすい感情、および自分の欲求達成のために他人を絶えず操作する行動が含まれる。

木嶋佳苗を「演技性人格障害」と断定するには未だ診断材料が不十分なのですが、マスコミ報道から得られる断片的な情報から、ほぼ間違いなく演技性人格の持ち主と考えられます。
高級外車、高級料理学校、頻繁な美容室通い、美容整形。普段はおとなしい女を演じているのに、駐車をめぐるちょっとしたトラブルで激昂する豹変ぶり。さらに、国立音大首席卒業、ケンブリッジ大学留学、皇族出身の母、東大教授の父などなどの、男たちを釣り上げる際に使っていた数々の嘘。
こういった言動は、先程示した「演技性人格障害」の診断基準のほとんどを満たします。唯一当てはまらないのが⑤の不適切なほど誘惑的な外見です。週刊誌に掲載された写真を見る限りおよそ誘惑的な外見とは言い難いのです。しかし彼女はその外見のハンデを、「尽くす」という決め台詞と手作り弁当という必殺アイテムで補っていたのではないでしょうか。
よく考えてみると結婚詐欺は絶世の美女、美男にはちと難しい犯罪と言えるかもしれません。長い間女ひでりをかこっていた男に傾城傾国が突然媚眼秋波を送ってきたならば大喜びする反面、警戒してしまうに違いありません。十人並みの器量に男好きする色気を併せ持つ者が結婚詐欺に最適なのだと思います。
そして、いったん鼻毛を抜かれてしまった男には、客観的に見れば陳腐にしか思えない嘘の数々も美しい化粧に見えてしまうのでしょう。さらに、私は騙された男性の側にも色恋の感情だけではなく、打算も加わるのだと思います。つまり、この女に貢いでおけば、いつか元が取れるのではないかという捕らぬ狸の皮算用です。いったん色と金に目が眩んでしまった男は女にとって思うがままの操り人形です。
こうなってしまうと、ある程度女の嘘や下心に気付いたとしても、今の関係を続けられるならば、騙されてお金を渡し続けてもかまわないという異常な心理状態に陥ってしまうようです。病膏肓に入るです。そして最後に殺されてしまっては何をか言わんやです。
木嶋の報道に続いて鳥取でも、35歳の女性周辺で複数の男性が不審死していることが話題になっています。男やもめをターゲットにした三十女の婚活詐欺・殺人が流行になりそうな気配です。
鳥取の事件の容疑者の人物像はまだ明らかにされていませんが、おそらくは演技性の人格者であると想像できます。

こういった性格の女にとって長いこと孤独な生活を送ってきた寂しい男やもめはまさに葱を背負った鴨に違いないのでしょう。それにしても、木嶋の被害者の中に80歳の老人がいたのにはびっくりしました。昔から「老いらくの恋」といいますが、「男って本当に死ぬまで男なのだなあ」と改めて再認識させられました。
人を信じやすく、煩悩の多い私が、この年まで殺されずにすんだのは幸運としか言いようがありません。

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