投稿日:2009年11月1日|カテゴリ:コラム

4回前のコラムで幾つかの問題点を指摘した、新型インフルエンザのワクチン接種が10月下旬から開始されました。私が取り上げた最大の問題は、医療の現場との十分な協議をしないまま、唐突にワクチン接種のタイムスケジュールと割当量を公表したことでした。国からの命令ですが、正式な通達の前に一般報道機関への発表がなされたのですから、正規の上意下達にさえなっていません。
その後も、どのような根拠で割当量の数字を算出したのかについて、全く説明がありませんでした。また、医師会や薬の流通業者との事前打ち合わせが皆無のままに決定されたタイムテーブルが実行可能かどうかはなはだ疑問でした。発表後にあたふたと我々医療機関に必要量の問い合わせを始めましたが、案の定、スケジュールは開始早々遅れを生じました。予定通り19日の週に優先順位第1位である医療関係者への接種を開始することができた県はわずかにとどまり、東京など大都市圏は翌週にずれこみました。
必要量の問い合わせや流通経路の決定などの準備行動はずっと以前から行うことができたはずなのに、一般人への公表の後に調査を開始するというお粗末さです。
私のクリニックは非常勤の職員を含めて7名分のワクチンを申請しましたが、10月22日に医師会を通じて送られてきた通達には、割り当て量が4名に決定したとありました。どのような基準で4名に削減した詳細な理由はなされないままでした。
小児科、産婦人科を優先し、次にインフルエンザ患者の治療に直接携わる科を優先したとの説明ですが、私のクリニックは4名の者だけが予防していれば大丈夫と判断したのでしょうか。これからの診療を私を含めて4名のスタッフがいれば診療を続けられるというのでしょうか。
私の家内の眼科診療所に至っては、私のクリニックよりも大勢のスタッフを抱えて、日々、ものすごく沢山の患者さんの診療にあたっているのにも関わらず、割り当ては0でした。眼科は直接インフルエンザの治療に当たる科ではないとの判断でしょうが、医師、スタッフが感染して、その人を介して二次的にインフルエンザの流行拡大の場になる可能性は大です。それでも構わないと考えているようです。
どのような過程で割当量が決定されたかについて、いろいろな方面に聞いてみたのですが詳細は不明のままです。薬品業界にも全く知らされておらず、ただ東京都を通じて○○医院には6人分、××病院には20人分届けなさいと言う命令が来ただけということでした。
私のクリニックには26日に4名分のワクチンが卸業者を通じて納入されました。私は4人分のワクチンを目の前にしてはたと困りました。私以外のスタッフの中からワクチンを接種する3名を選抜しなければならなかったからです。幸い、接種できないスタッフも物わかりよくあきらめてくれました。

私のクリニックは内科も診ているとはいうものの精神科が主体ですから、この手の割り当てが削減されるのもやむを得ないと自分を納得させようとしていました。ところが、先週木曜日発売の週刊文春を読んで、それまで私の頭の中に生まれていたもやもやが、一気にはっきりとした疑惑に発展しました。
文春によると、スタッフが70名もいる産科に対して4人分のワクチンしか納入されず、一方、妊婦の診療をしない不妊専門のクリニックに6名分のワクチンが割り当てられるという、きわめて杜撰な医療行政が行われているというのです。
詳細は文春をお読みになっていただきたいのですが、その記事と、私が前々から抱いていた疑惑とを合わせて想像すると、国民の健康に関する緊急事態の場において、またもや厚労省を舞台とした業・官の利権に利用されている可能性が大きいのです。
我が国のワクチン製造メーカーは4社です。この4社でワクチン製造を分け合っています。当然そのメーカーは厚労省からの天下り先になっています。今回の新型インフルエンザ騒動が勃発した段階で、この4社だけでは国民へのワクチン供給量が全然足りないことは分かっていました。それでも国内メーカーを守るために輸入量を極力減らすための数字合わせがなされたようです。
もともと舛添前功労大臣の時には国産ワクチンは1800万人分しか確保できないとしていたものが、9月末になって明確な理由説明なしに、突如2700万人分確保できると上方修正されました。
さらに10月に入ると、それまでは「今までに一度も遭遇したことのないウイルスだから2回接種が必要」とされてきた接種法の原則を、正確な科学的根拠に基づくことなく、また専門家への充分なヒアリングもないうちに、一般報道機関を通じて「1回接種で有効」というリークを始めました。
多方面からの異議が沸き起こって、さすがに一般人への1回接種原則は撤回しましたが、私たち医療関係者への接種は原則1回にしろという命令になりました。現実に不足しているワクチンを少しでも水増ししてごまかそうと言う姑息なやり方です。一般の方はよく知らされていないと思いますので、もう一度言っておきますが、医療関係者は1回の接種しかしてもらえません。厚労省の役人の考えでは私たち医療関係者は特殊な免疫機構を持っているらしく、一般の方よりも免疫がつきやすいということらしいのです。

こうやってあの手この手を使ってワクチンを水増ししているのです。こうして1回接種にすれば2倍の人に接種することができるはずです。当初医療関係者100万人分のワクチンを供給すると言っていましたから、1回接種に切り替えたことによるだけで200万人に対応できるはずです。それなのになぜ、実際に流通しているワクチンがこれほど少ないのでしょう。私は2700万人分確保したという報告が嘘なのではないかと考えています。実際にはそれほどの数が製造されていないのではないでしょう。
さらに穿ってみると、製造から私たち医療機関のところまでのルートのどこかで抜かれている可能性さえ考えられます。直接インフルエンザを治療する人だけが対象と言って医療機関の割り当てを削減しておいて、厚労省関係者やその家族の分がかすめ取られているのではないかと疑っています。そんなことをされたら、ワクチンがいくらあったって足りるわけがありません。

疑えばきりがありませんが、それほど新型インフルエンザワクチンに関する行政措置は不透明で秘密裏に遂行されています。今回のウイルスの毒性はたいしたことがありませんから、私を初め、多くの国民は大騒ぎもせずにおとなしくしています。しかし、これがもし致死率が50%を超える鳥インフルエンザであったらどうでしょう。どれほどおとなしい国民ではあっても、今回同様の疑惑に満ち、不公正な行政が行われるならば、命がけの暴動が起きることは必至です。
不可解なことの多い今回の新型インフルエンザワクチンの問題について厚労省は速やかに正確な数字と証拠を示して、誰もが納得のいく説明をするべきだと思います。

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