投稿日:2009年5月18日|カテゴリ:コラム

映画「GOEMON」が封切られて石川五右衛門が注目されています。石川五右衛門とは安土桃山時代に都を中心に出没した伝説の大泥棒です。歌舞伎や浄瑠璃の演目に取り上げられたために、次第に義賊としてのイメージが強調されていき庶民からヒーローとして人気を獲得しました。
今に伝わる石川五右衛門の姿は大きく脚色されて、実態とはかなりかけ離れていると思いますが、彼が狙った相手が当時の権力者ばかりであったことは事実のようです。また、捕えられた一族郎党が生きたまま釜茹での刑という残酷非道な方法で処刑されたことも相まって、日頃から権力者の横暴に不満を抱く庶民の心を掴んだものと思われます。
江戸時代の侠客、国定忠治は博打を生業とする博徒で、何件もの人殺しの他、違法行為の限りをつくした挙句、捕えられて磔で処刑されます。五右衛門と同じく無法者なのですが、忠治も弱い者を襲ったりはせず、天保の大飢饉で飢餓に苦しんでいた上州の民を救ったとして、講談、新国劇や映画で庶民のヒーローとして取り上げられ、今でも人気が衰えません。
悪事を働く者なのに庶民から軽蔑されたり嫌われることがなく、それどころ国民的なヒーローとして扱われる五右衛門と忠治に共通するものは何なのでしょう。それは第一に弱い者いじめをしない反権力であること。第二にアナーキーなアウトローとして首尾一貫していること。三番目は颯爽と潔いこと。この3つではないでしょうか。

先日、さいたま地方検察庁の現職検察官が朝の通勤通学電車の車内で、痴漢容疑により逮捕されたという報道がありました。少し前に防衛医大の教授の痴漢容疑裁判で、教授が冤罪被害者であったことが確定する最高裁の決定があったばかりなので、またもや冤罪事件発生かと思いきや、本人があっさりと罪を認めたとあります。さらに地検検事という職業柄、この男はこれまでに痴漢容疑者の取り調べを何件も担当したことがあるというのです。朝の通勤電車内の行為ですから素面の行状と思われます。ブラックユーモアが効いた筒井康隆の小説の世界ならば笑って済ませられますが、それが現実のものとなると腹立たしいやら悲しいやら、複雑な心境にさせられました。
そういえば現職の裁判官が部下の女性に対してストーカー行為を繰り返して起訴された事件も記憶に新しい出来事でした。
いくら「下半身に人格なし」とは言うものの、法曹によるこの手の犯罪を耳にすると、やはり開いた口が塞がりません。呆れる最大の理由は法の番人たる立場の人間が止むを得ない事情なくして法を犯す行為をしたということです。
しかし、呆れる理由はこの「盗人に蔵の番」ということだけではありません。犯罪自身があまりにもいじましくて情けないということもあります。一言でいえばみっともなくてカッコ悪すぎるのです。
下半身と言えば、鴻池祥肇前副官房長官が、首相官邸で新型インフルエンザ緊急対策会議をしている最中に、愛人の人妻と熱海に二泊の不倫旅行していたことが発覚して、官房副長官辞任に追い込まれました。
相手も家庭争議覚悟で関西から熱海まで飛んできた、合意の上の大人の愛であり、犯罪ではありません。嫌がる女子高生の尻を触ったり、立場上弱い部下をメールで追いかけまわす行為などと比べては失礼な話です。別人格である下半身の堂々たる活躍ぶりを示す武勇伝と言えるかもしれません。スクープされた写真には、熱海の街を肩寄せ合って歩いたり、豪快なティーショット場面など悪びれない二人の姿が写っています。
道徳規範からの善悪をさておけば、草食系とか何とか言われて、男子の頼りなさばかりが目立つ昨今、これはこれで日本男児の面目躍如かと思いました。なにせ彼は自称、山中鹿之助の子孫であり、大伯父に関西の大侠客と言われた鴻池忠治郎を持つ男です。格好良い、男っぷりの勇み足かと思いきや、この期待は見事に裏切られました。
なんと不倫旅行の東京―熱海間の新幹線を、国会議員の無料パスで往復していたのです。そういえばこの男、東京での愛人との密会場所に議員宿舎を使っていた前科もありました。私たちの税金に支えられた下半身だったのです。侠の人どころか、何のことはない、吝嗇で無粋な腑抜け野郎だったのです。
痴漢検事、ストーカー判事、好色議員たちの犯した悪事は、それ自体は軽微なものかもしれません。犯罪とは言えないものもあります。しかし、彼等は普段は絶対的な権力をもって国民に偉そうなことを言っている連中です。それが弱い女学生相手に卑劣な行為をしたり、権力を笠にきて交際を迫ったり、血税を使って肉欲にふけったのです。結果として、弱い者いじめであり、弱い者の生き血を食い物にしているに他ならないのです。
また、偽善の仮面で人を欺き、陰でこそこそと悪いことをしています。二重人格、二枚舌です。
ストーカー判事は起訴されてから罷免までの間の給与や賞与の返還の要求に応じる気配がありません。鴻池さんも副官房長官こそは辞任しましたが、議員辞職するわけでもなく、病気を装って病院に雲隠れしてしまいました。潔さが全く見受けられず見苦しい対応です。
国民的ヒーローとなった大悪党、五右衛門や忠治とまったく正反対です。悪事の中に少しもかっこよさが見られません。

人間は法や倫理道徳に照らして、一生清く正しく生きることなんかできません。実際に今まで私は、悪いことを1回もしたことない人なんて見たことがありません。
これからだって、私たちは何らかの事情で悪党の仲間入りをしなければならないかもしれません。もしそうなった時には、悪事を働くとしてもせめて颯爽と粋で品格のある悪党でありたいものです。

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