これから睡眠障害の中の不眠への対処方法を述べます。しかし、あらかじめ御注意申しあげておきますが、これから述べる事項にあまりとらわれすぎると、
かえって不眠になってしまいます。
なぜならば、こだわりすぎるといわゆる「睡眠おたく」になってしまい、眠ることにエネルギーを注ぎこむ結果、寝付くことができなくなってしまうからです。なにごともほどほどが肝心です。
まず、睡眠時間を他人と比べない。前にもお話したように、睡眠時間は人それぞれ違います。ナポレオンみたいに短い睡眠時間ですむ人(short sleeper)もいれば、眠り姫のように長い眠りをとらないとエンジンのかからない人(long sleeper)もいます。
睡眠は8時間とらなければいけない。それ以下の睡眠時間では身体に悪いと信じている人が少なくありません。8時間信仰といえます。じっさいには、8時間も睡眠を必要とするのは若い時で、成人の場合、6~7時間で充分といえます。
また、日によっても睡眠時間が違ってくるのは当たり前です。ぐっすりと長い時間眠る晩もあれば、いつもよりも寝付くまでに時間がかかったり、比較的早く目覚める晩もあります。たまには全然眠れないで一晩を過ごしてしまうことがあったって、別に睡眠障害とはいえません。
カフェインは覚醒作用がありますから、あまり夜遅くになってからカフェインの入った飲み物は飲まないほうがよいでしょう。カフェインというとたいていの人はコーヒーを思い起こされますが、じつはカフェインはコーヒーよりも紅茶、紅茶よりも緑茶のほうに多く含まれていますから、食後の緑茶にはご用心を。
タバコに含まれるニコチンも脳を刺激する作用がありますから、寝しなにあまり吸いすぎると寝付きにくくなります。
昔からよく、早寝早起きといいますが、眠るほうはなかなか自分の意思で行うことは難しい。むしろ、早く眠ろう眠ろうと意気込めば意気込むほど頭が冴えて眠れなくなってしまうことは何回もお話しました。
しかし、早起きのほうは家族の協力や強力な目覚まし時計の力を借りれば、計画的に実行することができます。早起きをして、なるべく早く太陽の光を浴びると、その晩に快適な入眠をもたらしてくれます。遅寝、遅起きの悪循環から早寝早起きの好循環に変換するための秘訣は「早起き」です。
ヒトは起床後、明るい光を浴びてから約15~16時間後に眠気が現れるといわれています。実際には目が覚めているのに、ふとんの中でいつまでもぐずぐずして日の光を浴びないと、寝つきのスイッチが1時間ほど遅れてしまいます。当然ながら、夜いつまでも部屋の明かりを煌々としておくと体内時計のリズムが遅れて、なかなか眠れません。
昼寝は避けたいところですが、どうしても昼寝をするならば、お昼から午後3時までの間にして、できれば30分以内にしておいてください。午後3時以降の昼寝だと体内時計を狂わせます。また、30分以上の昼寝は夜の睡眠を引き起こす力を弱めますし、身体を夜であるかのように錯覚させて、これもまた体内時計のくるいの原因になります。
朝食を摂りましょう。いつも同じ時刻に朝食を摂っていると、やがてその1時間ほど前から胃腸が動き出すようになり、朝の目覚めがより快適になります。
「今日も元気だ、ご飯がおいしい」です。
夕食は軽めにしましょう。夜食はメタボリックシンドロームのためにも避けたいところですが、空腹すぎても寝付けません。やむなく夜食を摂る場合には、蛋白質の少ない消化のよい、低カロリーのものにしましょう。
毎日規則的に、軽く汗ばむような運動を行うと快適な睡眠を得ることができるようになります。しかし、現代の都市生活者の中で毎日の適度な運動なんて、フィットネスクラブに毎日いけるだけの時間とお金の両方があるごく一部のお金持ちしかできません。しかもごく一部の金持ちにだけ富が偏在して、多くの人は神経すり減らして働けど働けど、暮らしが苦しい昨今です。言うは易し、行うは難しです。
でもあきらめてはいけません。庶民はタクシーを使わず、地下鉄の階段をこれぞステァマスターと思って、軽快にのぼるとよいでしょう。IT長者なんて羨ましがることはありません。
「おーい、安倍ちゃん、俺の不眠、なんとかして、夢の中だけでいいから美しい国みせてくれよ」、なんてぼやいていると、よけいに不眠がひどくなりそうです。