1月20日米カリフォルニア工科大学の研究チームから海王星の外側に惑星が存在する可能性があると発表された。
おや待てよ。確か太陽系の惑星はすでに9個あるではないか。「すいきんちかもくどってんかいめい(水金地火木土天海冥)」は数学における「九九」と同じく、小学生の時に理科で何度も唱えさせられ、既定の事実として頭に叩き込まれたはずだ。
科学好きの人は御存じだろうが、残念なことに、1930年の発見以来、太陽系最も外側を周回する第9惑星の座に就いていた冥王星は、2006年8月に開催された国際天文学連合総会において惑星の座から追放されて、1ランク下の準惑星に降格していたのだ。
したがって、今のところ太陽系の惑星は「すいきんちかもくどってんかい」の8つしかないことになっている。だから、今回その存在が有力視された天体が実際に望遠鏡で確認されれば太陽系第9の惑星になる。
実際に見てもいないのに、なぜあると言えるのか。答えは引力。無数の天体が密集する太陽系外縁部のカイパーベルトと呼ばれる領域の周辺にある6個の天体の動きに注目した。これらの天体が太陽の周りを回るスピードや軌道の傾きなどから計算すると、大きな質量を持つ未知の天体の引力の影響を受けていることが分かった。その結果新たな惑星が存在すると理論的に導き出したのだ。
想像される新惑星の姿は、地球の10倍程度の質量を持つ、木星と同じようなガス型惑星で、海王星までの平均距離(役45億km)の20倍程遠い軌道を1万年から2万年の周期で太陽を回っていると思われる。研究チームはおそらく5年以内に望遠鏡で実際の姿が確認されるだろうと予測している。
ここで皆さんはまた「そんな大きな天体を発見するのになぜ5年もかかるのだろう」という疑問を持つだろう。だが、惑星の視認はそれほど簡単な作業ではないのだ。その理由は惑星が恒星と違って、自身で光り輝くことがないことと、広大な宇宙というスケールから見てあまりにもちっぽけだということだ。
自ら光(電磁波)を発しない惑星の観測は太陽からの反射波を検知するしか方法がない。当然ながらその光は微弱だし、太陽と地球とその惑星の位置関係から常に観察するわけにはいかない。観察できる期間が限定される。
水・金・火・木・土星は肉眼で見ることができる。地球より遠い軌道を回っている火・木・土星はほぼ1年中見ることができるが、見える時期が「明け方→真夜中→夕方」と変わっていく。
地球より内側を回る水・金星は太陽から離れることができないので、明け方と夕方にしか見ることができない。金星は夕方に7ヶ月間、明け方に7か月間見ることができ明けの明星、宵の明星として有名だ。
水星は太陽に近いため明るさは1等星級なのだが日の出前のほんの一瞬しか見るチャンスがない。
地球から遠く離れた軌道を回る天王星と海王星は太陽からの距離も離れているので、距離が遠いだけでなく、反射光も弱いので肉眼では見ることができない。望遠鏡を使ってもなかなか周囲の星と区別がつかず、大型の望遠鏡でやっと丸く見える程度だ。
もう一つの理由、宇宙のスケールがけた外れに大きいということは、私たちの日常的な感覚ではなかなか理解できないことはこれまでのコラムでも再三述べてきた。それでもまだこのスケールには付いていき難い。
私たちが太陽系の正しいイメージを持てない原因は小学校から理科の教育現場で使われる模式図にある。多くの模式図は下記のように大きな太陽の周りを規則正しく同心円状に水金地火木土天海が並んでいるものだ。
だが、実際はこのモデルとはかけ離れている。
まず、太陽は地球などの惑星と比べてけた外れに大きい。太陽の直径が1,400,000kmなのに対して地球の直径は12,700kmでおよそ110倍。もっとも大きな惑星、木星の直径でさえ139,800kmで太陽の1/10未満なのだ。
さらに太陽からの距離も模式図では書けないほど離れている。もっとも遠くを周回する海王星の平均公転半径は約45億kmで光の速度でも4時間もかかる。
こう書かれてもピンとこないだろうから、身近な物に置き換えてみる。太陽を直径1m(1000mm)のバランスボールとすると一番近い水星は41.4m先に置かれた直径3.5mmの正露丸くらいの粒になる。地球は106.9m離れた直径9.1mmのビー玉。木星は直径10cmの砲丸投げの砲丸ほどの大きさをもっていて目立つが、残念なことに中央のバランスボールから555.9mも離れている。海王星に至っては大きさ3.5cmのピンポン玉が3.2km先に置かれている状態。
第9惑星とされる天体は、たとえ木星と同じように砲丸程度の大きさがあったとしても、おかれた位置はなんと中央のバランスボールから60km以上離れていることになる。バランスボールを東京駅ホール中央に置くとすると大磯あたりに置かれた砲丸ということになる。
大磯に置かれた光らない砲丸を東京駅から探し出すことの困難さを理解していただけただろうか。
今回の惑星は大質量で周囲の天体に顕著な引力作用を及ぼしていたから発見されたわけで、小さな質量の惑星は今も、またこれからも人類に知られることなく太陽の周りを回り続けるに違いない。
このように、日頃分かり切ったことと思っていることは実は氷山の一角にすぎず、まだまだ分からないことの方が多いのだ。
人類よもっと謙虚になりましょう。