薄暗い座敷で向かい合う二人。代官と越後屋だ。越後屋が代官に菓子折りを差し出す。代官はそれを手に取って重さを確かめる。そして「越後屋、おぬしもわるよのう」と呟きながらニヤッと笑う。それを受けて越後屋も笑いながら「いえいえお代官様ほどでは」と返す。「水戸黄門」をはじめ時代劇の定番シーンだ。
先週、原発立地自治体幹部の電力関係機関への天下りと地元への金のばらまきについて述べたコラムを載せた日に、愛媛県知事が四国電力伊方原発の再稼働同意を表明した。
伊方原子力発電所は佐多岬半島の付け根に位置して、事故発生時に外部から支援したり住民が避難するルートが急峻な山を背負った海沿いの道路しかない。そしてその途中にがけ崩れの危険地帯が何か所もあり、この道路の拡幅工事やヘリポートの建設が急がれてきたが、それらの工事はまだ完成されていない。
住民の安全確保という必要最低限の条件が満たされていない段階での知事の承認はいかにも不自然で拙速な感を否めない、と感じていたところにまたも東京新聞の報道。伊方町の県が設置した原子力広報センターは、愛媛県と伊方町と四国電力が共同出資して設立。常任理事には伊方町を管轄する県南予地方局の総務県民課長OBが再就職し、役員には伊方町町長、県幹部、四国電力幹部が名を連ねている。
毎年4800万円の事業費のうち薬2800万円は県と伊方町からの委託費で、残る2000万円は四国電力が寄付の形式をとって拠出している。
同センター内の展示では福島第1原発の事故には全く触れておらず、原子力発電の安全性と必要性ばかりを強調する内容。チェルノブイリ原発事故に関する記載には「日本の原子炉と構造的に異なり、日本では同じような事故は極めて考えにくい」と解説している。まるで平成23年3月11日以前にタイムスリップしたかのようだ。
公的機関の広報は中立的で科学的でなければならない。ところがこのセンターは中立性を全く無視して、金と天下り先を提供された電力会社のPR役に成り下がっている。県経済の活性化もさることながら、住民の生命、財産を守らなければならない地方自治体の責務を完全に放棄している。
この報道を呼んで、拙速な中村時広愛媛県知事の再稼働同意が納得できた。県民の安全確保なんか端から頭にない三文芝居だったのだ。同意書を手渡す際、真面目そうな顔つきで四国電力幹部に「安全性に十分配慮して下さい」なんて言っていたが、裏では同じ手で菓子箱の重さを計りながら、「四国電力さん、おぬしもわるよのう」とほくそ笑む姿が目に浮かんでしまう。
金でことを解決しようとする構図は沖縄の辺野古でも見られる。政府は移設反対の立場を取る地元自治体、名護市の頭越しに予定地にもっとも隣接するとなる辺野古、豊原、久志の久辺三区に対して直接補助金を出すことにした。
これまで国は名護市に対して米軍再編交付金の名目で補助金を交付してきたが、移設反対派の稲嶺市長が就任してからは同市に対してこの補助金の交付を停止していた。
菅官房長官は「今後の生活の向上、地域の振興にできる限り配慮するのは当然」としているが、地域振興の補助金は市町村を通じて行うのが通例で、市町村の頭越しに特定の区単位に金をばらまくのは地方行政を無視した異例の措置だ。あからさまに金で面を張って言うことをきかせようとするもので、越後屋と代官というよりは、親分の命を受けて使い走るやくざの地上げだ。
また、普天間飛行場の辺野古移設計画の環境への影響を監視する国の有識者委員会、「環境監視等委員会」のメンバー全12名のうち中村由行委員長(横浜国立大学大学院教授)をはじめ、荒井修亮委員(京都大学教授)、茅根創委員(東京大学大学院教授)、原武史委員(全国水産技術者協会理事長)の4人が、移設関連事業の受注業者から多額の報酬や寄付金を受け取っている事実も判明した。
中立公正であるべき委員会の委員が金にまみれている状況は、やくざに金を掴まされた審判がゲームを取り仕切る八百長ゲームと一緒。政府が言う「できる限り環境に配慮した移設工事」と言う台詞が嘘八百であることは明らかだ。
最近の安倍政権のあらゆる場面に見せる強権的政治手法を思い返してみると、まさに国家の名を借りた巨大な暴力団の振る舞いだ。桜の代紋を背負った巨大暴力組織である。そして、このご一家の周りにはたくさんの越後屋が群がっている。
だが、今や国内に敵なしで傍若無人な狼藉を働いている安倍一家も、実はアメリカと言う超巨大暴力組織の参加団体の一つに過ぎない。
その中で少しでも大親分からの思いを愛でたくしてもらうために、憲法違反を犯しても集団的自衛を可能にし、沖縄県民の人権を踏みにじっても辺野古移設を強行するのだ。安倍親分の涙ぐましい奮闘ぶりに拍手を送ろう。