今年の夏は一時期猛烈に暑かったがお盆を過ぎた途端にあっという間に秋風が吹いてきた。この春に出た気象庁の長期予報では、今年の夏は冷夏ということだった。各テレビ局の気象予報士も、エルニーニョ現象が起きているので今年の夏は冷夏と言っていた。
ところが梅雨明けとともに記録的な暑さが続いたために、ワイドショーでは気象予報士たちが責められた。だが結果、夏全体を通してみれば気象関係者の予報は当たっていたことになる。
気象衛星をはじめ科学技術の発達にともなって最近の天気予報は実に見事に的中するようになった。私の子供の頃の天気予報、「今日は晴れのち曇り、ところにより雨」といった占いのような予報とは大違いである。今や天気予報はその日の行動を決めるために欠かせない情報として定着した感がある。
さて、秋の日は釣瓶(つるべ)落としというが、すでに秋分の日も過ぎて一日は昼よりも夜の方が長い期間に入っている。そして、日の入り時刻は毎日1分25~26秒ずつ早まっている。
因みに10月5日(月曜日)の東京における日の出時刻は午前5時37分53秒で日の入り時刻は午後5時20分43秒だ。
ここで疑問が湧いた。日の出時刻と日の入り時刻が0時を中心といて対称になっていない。地球の自転速度はほぼ一定だから日の出が0時から5時間37分後であるならば、日の入りは次の日の0時のおよそ5時間38分前後、すなわち6時22分前後でなければならないはずではないか。ところが実際の日の入りはこの予想時刻よりも1時間近く早いこれはなぜだろう。
この不思議は昼と夜の長さが同じになるはずの春分や秋分の日の日の出時刻と日没時刻を見るとより深まる。昼と夜の時刻が同じということは、理論的には午前6時に日が出て午後6時に日が沈まなければならない。ところが今年の東京の秋分の日(9月23日)の日の出時刻は午前5時28分30秒で日の入り時刻は午後5時38分4秒なのだ。予想よりも30分近く前倒しということになる。
この謎は数年前の冬に行った長崎へのゴルフ旅行を思い出すことによって解くことができた。
真冬に行ったので日が短かったのだが、東京近郊でゴルフをしている時よりも遅い時間まで明るいことに気付いた。その代り、朝の日の出が遅いのだ。最終日で帰りの時刻が決まっていたので早めに朝食をとったのだが、もう7時を過ぎたというのに、ホテルの窓の外はまだ真っ暗だったのだ。
言われてみれば、天気予報でも「各地の日の入り時刻」というコーナーがあるように、場所によって日の出、日の入時刻は違うのだ。具体的には西に行けば行くほど日の出、日の入り時刻は遅くなり、東に行けば行くほど早まる。
分かってしまえば、なんということはない、地球は東の方向に自転しているのだから東に行けば行くほど太陽に早くお目にかかるのは当たり前といえば当たり前。
日本の中央標準時は東経135度の子午線の時刻と定められている。小学校で学んだ知識では東経135度に位置する兵庫県明石市の天文台に設置された時計で標準時を示すとなっていたが、現在は自然科学研究機構国立天文台が決定して岩手県奥州市にある水沢VLBI観測所のセシウム原子時計で実際の信号を発しているらしい。
難しい仕組みはともかく、今でも日本の時刻は明石の時刻であり、明石より東では実際の自然現象は標準時よりも前倒しになり、西では先送りとなる。
地球が1周する時間が1日(24時間)なので、360÷24=15の式から経度15度当たり1時間の時間差が生まれる。これが時差だ。海外旅行ではこの時差を当然のように理解しているが、国内で生活していると忘れがちである。人間はどうしても自分を中心に考えてしまうので、自分がいる場所を中心にものを考えてしまうからである。
日本の東端は東京都南鳥島で北緯24度17分12秒、東経153度58分50秒に位置する。一方、西の端は北緯24度28分6秒、東経123度0分17秒にある沖縄県与那国島だ。東西の経度の差は30度を超える。ということは同じ日本とは言っても実際には2時間の時差が存在するわけだ。
ところが国内で使用される時計はすべて明石の標準時に統一されている。このために住んでいる場所によって同じ時刻に対する感覚は相当に異なってくるだろう。つまり、小笠原村に住む人にとっての午前7時は朝の一仕事を終えた時刻なのに対して、与那国島の住民にとっての朝7時は、まだ眠気がとり切れない時刻なのではないだろうか。
さあこれで、日の出、日の入りの時刻の不思議が解決したように見えたが、さらにまた疑問が湧いてしまった。細かいことが気になる私の悪い癖だ。その疑問とは昼と夜との長さが同じである春分、秋分の日の日の出、日の入り時刻をよく見ると、実際には昼と夜の長さが違うのだ。
たとえば今年の東京の秋分の日の昼の長さはおよそ12時間9分出夜の長さは11時間51分となり、昼の方が約9分長いのだ。なぜだろう。
この理由は先ほどの時差の問題ほど簡単ではなかった。調べた結果、昼と夜の長さのずれは日出没の定義と大気による光の屈折が関係していることが分かった。
まずは日出没の定義だが、日の出とは太陽の上辺が水平線(地平線)に接した瞬間を言い、日没とは太陽の上辺が水平線(地平線)に接した瞬間と定義されている。このために日の出、日の入りとも太陽の視半径(太陽を見た時の半径でおよそ0.265度)分だけ日の出は早く、日没は遅くなる。さらに、太陽光が地球の大気を通過する際に屈折するため、日の出の時に実際はまだ太陽が水平線まで上る前に見える。
またこの他にも観測場所の高度も関係する。観測場所が高ければそれだけ日の出は早くから、日の入りは遅くまで見えることになる。
以上幾つもの要因が重なって昼間の方が夜に比べて8~9分長くなるようだ。
ずいぶん日が短くなったなと言う印象から始まってずいぶん難しい話になってしまった。日の出、日没に限らず、日頃なんとはなしに分かったつもりになっているが実は身の回りには結構不思議なことが転がっているのだ。