投稿日:2014年11月24日|カテゴリ:コラム

「働かざる者食うべからず」という慣用句がある。英語だと「He who does not work, neither shall he eat」だ。ソビエト社会主義共和国連邦を立ち上げたウラジーミル・レーニンが社会主義の実践的戒律として掲げた言葉だ。
実はこの言葉の出典は新約聖書「テサロニケの信徒への手紙二」3章10節にある「働こうとしない者は、食べることもしてはいけない」による。本来、働きたくても病気やけがで働けない者に対して「食うな」とは言っていない。
レーニンもこの言葉を不労所得で荒稼ぎする資産家たちの生き方に対する戒めとして掲げたのであって、働きたいにも拘わらず何らかの理由で働くことができない者は、社会で救済しなければならないと考えていた。
だが、最近この言葉は「失業者は食わずに我慢しろ」とか「営業成績の悪い社員の給料は下げて当然」のように経営者にとって都合よく曲解されて使われる傾向がある。
正当な理由なくして勤労を拒否してはならないという精神は、現在の日本国憲法にも謳われている。第27条に「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」とあり、勤労は教育、納税とならんで国民の3大義務とされている。

さて、広辞苑によると勤労とは「心身を労して勤めに励むこと」とある。平たく言えば汗水たらして働くことを言う。時代とともに仕事の形は変わっていくとしても、勤労の本質は変わらないはずだ。
ところが、このところ勤労を誤解している者が多くなっているように思う。筋肉を使って汗を垂らすことは単なる苦痛であり、下等な勤労と考えるようになった。
生活保護を受けている若者に「被災地の復興や、東京オリンピックで人が足りないと言っているから、その気になれば仕事はあるんじゃないの?」と尋ねると「いや僕に合った事務仕事はないんですよ」と返ってくる。体を使う仕事は端から頭にないようだ。
それどころか勤労そのものをできる限り避けた方が良いものと考える人も少なくない。生活保護費でFX取引をやっている者もいる。
だが、まともに働こうとしない者の気持ちも理解できなくはない。なぜならば、今の世の中は勤労しない者の方が甘い汁を吸う仕組みになっているからだ。汗水垂らして働く者は正当な対価を与えられず搾取される一方である。
エアコンの効いた部屋でパソコンや電話1本で株や通貨の売買をするだけ。働かずして金儲けをする者が恥ずかしげもなく大手を振って歩く世の中の仕組み。
会社を興しても社業で世の中に貢献し、社員の生活を安定することを目標にせず、株式市場への上場を果たし、株価が上がったところで会社を叩き売って己のみが財を成すことを目標にしている者もいる。会社までもが金儲けのための商品になっている。そこで働く社員の顔は頭に浮かばないのであろうか。
会社は株主のものと言うが、とんでもない話だ。株主よりも社員が優先されてしかるべきだろう。
人のためになる勤労をし、その報酬として金を頂くのが本筋だと思うのだが、いつの間にか金儲けそのものが目標となり、勤労はその途中に立ち塞がる、何とか避けたいハードルになってしまったようだ。こんな価値観の中で若い者に汗水たらして働けと言っても無理というものだ。

こういう歪んだ価値観に拍車をかけるのがアベノミクスと自称する経済政策。なんと物価と株価が上がることを景気上昇の指標だという。
数字を操って一つの物を二つに見ることができる経済評論家とやらは納得かもしれないが、一つは一つにしか見えない私には物価と株価だけが上昇するだけで日本の生産力、経済力が向上するとは到底思えない。
いやむしろ多くの国民が疲弊して、国の力は損なわれると考える。利するのは円安差益で見かけ上の利益が増大する一部の大企業と、何ら生産に寄与することなく、株や外貨の売り買いをするだけで金儲けしている不労所得者の連中だけだ。

最近、再生可能な社会への転換の観点から江戸文化が世界中で見直されている。江戸時代の士農工商というヒエラルキーもあながち封建時代の悪しき差別制度として否定はできないのではなかろうか。
軍事を預かる士をトップとすることの是非はともかく、命をつなぐために最も重要な食料を生産する農民を尊び、次いで食料以外の様々な物品の生産にあたる職人を大切にし、自らは何も生産せずただ売り買いの差益で財を成す商人をもっとも卑しいとした考えは今こそ蘇るべきだ。

ソビエトの壮大な共産主義の実験は、競争原理を組み入れなかったことで失敗に終わった。ベルリンの壁崩壊は資本主義の共産主義に対する勝利の象徴と言われる。だが、自己中心的な欲望をどこまでも肥大化させる資本主義が最善とも思えない。この欲望システムは早晩地球を食いつくしてしまうだろう。
勤労を尊ぶ、そして勤労が報われる健全な社会の到来が望まれる。

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