投稿日:2014年8月25日|カテゴリ:コラム

また1社、格安航空会社(LCC《Low Cost Carrier》)が我が国の空に参入してきた。春秋航空日本。中国資本の格安航空会社だ。これで我が国のLCCはジェットスター、ソラシド・エア、スターフライヤー、スカイマーク、ピーチ・アビエーション、バニラエア、北海道国際航空と合わせて8社となった。
LCCの参入は「今まで懐具合から諦めていた人たちが空の旅を楽しめるようになった」、「もはや飛行機はお金持ちだけが乗ることができる特別な交通機関ではなく、誰でも乗れる空のバスになった」ともてはやされた。
だが、格安な、空の旅はそんなに喜ばしいことなのだろうか。

私はケーブルテレビの深夜放送で「メーデー!:航空機事故の真実と真相」という番組をよく観る。過去実際におこった航空機事故を事故調査委員会の資料などを基に再現したセミドキュメンタリー作品。
これを観て分かるのは航空機の安全には、操縦士をはじめとするクルーの習熟と徹底した機体の整備がいかに重要かということだ。いかにコンピュータ化された最新の飛行機であってもこの二つ条件が備わっていなければ、いとも容易に大事故を起こしうる。それどころか、コンピュータ化されたからこそ、より一層訓練と整備とが重要になるのだ。
もちろん、完璧に整備された機体を最優秀のクルーが飛ばしたとしても、想定を超える異常な状況に遭遇したならば墜落する可能性はある。
なにせ数百人の人と荷物を載せたジュラルミンの塊を重力に逆らって飛ばしているのだ。ジャンボの場合、総重量が400トンにもなる。見方を変えれば、すべての条件が整って初めて飛べるのであって、一つでも必要条件を欠けば、自然の法則にしたがって墜落するのが当たり前なのである。
自然の法則に逆らって、時間と便利さを手に入れるためにはそれなりの対価がかかって当然なのだ。一方、安さにはそれなりの理由があると考えるのが当然ではなかろうか。
それは航空機に限ったことではない。食品でも安さの裏に恐ろしい理由が隠されていることが少なくない。最近大騒ぎになった中国の劣悪な食肉加工業者が良い例だ。
この報道を受けて、識者と称する人たちが安さという基準だけでの食品選びがいかに危険なことかと、喧々諤々論じていたが、何を今さらである。
安全性を無視した価格競争が当たり前になったのは小泉・竹中による過剰な規制緩和政策の成果だ。元を正せば、政府よりも力を持つアメリカの資本集団のあくなき利益追求の結果である。すべては市場における自由な競争に任せておくのが正しいとする市場原理主義がモラルの低下を招き、自然や生命に対する畏敬までも奪ってしまった。
すべてを平等にとした共産主義経済は確かに非現実的であった。だが、すべてをあくことのない欲望を満たすための競争に巻き込んでよいのだろうか。そうは思わない。
小泉・竹中以来、「聖域なき・・・・」という言葉が錦の御旗のように使われてきた。だが、聖域はあってしかるべきなのだ。少なくとも人々の生命に関する領域は金儲けの競争の具にしてはいけない。

熾烈な価格競争の結果、劣悪な労働環境で成り立っている格安バスツアーで事故が多発している。それでもバスはまだブレーキを踏めば止まる。しかし、飛行機は止まった途端に墜落する。こんな危険な乗り物がバスと同様に価格競争の対象になってよいのだろうか。やはり飛行機は高価でぜいたくな乗り物であるのだ。
安売り商品を買って得をしたと思っているあなた。実は売り手はあなたであって、自分の生命を安売りしているのですよ。

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