投稿日:2013年11月4日|カテゴリ:コラム

去る10月25日作詞家の岩谷時子さんが亡くなった。享年97歳であった。岩谷さんは「恋のバカンス」(ザ・ピーナッツ)、「ウナ・セラ・ディ東京」(和田弘とマヒナスターズ)、「夜明けのうた」(岸洋子)、「逢いたくて逢いたくて」(園まり)、「君といつまでも」(加山雄三)、「恋の季節」(ピンキーとキラーズ)、「おまえに」(フランク永井)、「ベッドで煙草を吸わないで」(沢たまき)、「いいじゃないの幸せならば」(相良直美)、「男の子女の子」(郷ひろみ)等々。ジャンルを問わず多くの歌手に珠玉の名曲を提供してきた。合唱曲、校歌、ミュージカル曲なども手掛け、生涯作詞・訳詞曲数は3000を超えると聞く。
作詞曲も素晴らしいが、私は岩谷の訳詞が好きだ。彼女を一躍音楽界のエースに仕立てたのも越路吹雪の「愛の賛歌」の訳詞だ。この曲はもともとフランスの偉大なシャンソン歌手エディット・ピアフが自らの悲劇的な恋愛体験をもとに作詞した曲を自分で歌ったものだ。今でもシャンソンを代表する名曲の一つである。
この歌を越路が歌う際に日本語の訳詞を担当したのが、当時越路吹雪のマネージャー兼付き人であった岩谷時子さん。当時はまだ越路は大スターとなっていなかった。このために所属していた東宝は越路の曲のために訳詞料を支払ってはくれなかった。そこで、越路が岩谷に「あなた英文科卒なんだからこの詞を訳してよ」と依頼したという話は、死後のエピソードで初めて知った。
「あなたの燃える手で・・・・・」で始まる、岩谷のこの訳詞は、原曲の熱愛感を失わず、なおかつ原曲以上に洗練された作品となり、越路独自の「愛の賛歌」を作り出した。その後の大ヒット曲、アダモの「雪が降る」も岩谷さんの訳詞だ。「愛の賛歌」、「雪が降る」によって訳詞という大きなジャンルが作り上げられたように思う。

音楽には様々な演奏形態がある。フルオーケストラ、トリオ、クァルテット、弦楽四重奏、ピアノソロ・・・・・・・・・。こういった器楽演奏の場合、聴衆はメロディとリズムとハーモニーを楽しむ。ここに歌手が加わると、スキャトやドワップは例外として、上記3要素に加えて歌詞が重要なファクターになる。シャンソンなどは詞の方に重きがあるように思う。詩の表現の一部として抑揚をつけてを高らかに歌い上げている作品も少なくない。日本の謡曲もこのジャンルに入るだろう。
歌手が入っている場合には、詩を大事にした曲であるべきだと思うのだが、近年、小室哲哉あたりから、我が国のポップス界はリズムばかりの楽曲が優勢となってしまった。歌手の技量の低さもあるのだろうがシャカシャカ、アップテンポのリズムばかりが耳に残っていったい何を歌っているかさえも聴き取れない。メロディラインも美しくないので、1,2度聴いただけでは頭に残らない。

音楽はあくまで好みである。どのジャンルの音楽が一番でどの音楽はレベルが低いと順位づけるべきものではない。しかし、私は心に響く詩と美しいメロディが好きだ。
岩谷時子さんのご冥福を心より祈る。

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