投稿日:2010年6月14日|カテゴリ:コラム

以前のコラムでお話ししたように、私は周辺地域での往診や在宅診療をしています。以前はピザ屋さんが配達に使っているキャノピーという原付三輪車を使用していましたが、力がないので坂の多い文京区への往診ではよたよたと頼りありませんでした。それなので、2年前にホンダのフュージョンというスクーターに買い替えました。
往診は雨だろうが風だろうが、暑かろうが寒かろうが休むわけにまいりません。ですから改造して屋根、ワイパーをつけ、グリップにはヒーターを装着しました。事故防止のために色は赤にしました。結果としてかなり目立つへんちくりんな乗り物になりました。
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確かに事故には遭いにくいのでしょうが、あまりにも目立つために困った事態も起きます。
バイク便をやっている人からこう言われます。「先生、3日前の夜8時頃外苑西通りの四谷3丁目辺りを走っていたでしょう」。娘が友人のピザ屋さんからこう言われます。「お前の親父さん木曜日の午後3時頃癌研通り走ってたよ」。家内から「あんたさっきスーパーで何買ってたの?」。このバイクで移動する限り、私の行動は衆目監視で丸裸。とても不埒なところへ行くことなどできそうにもありません。

さて、先日このバイクで往診に出かけた時のことです。とある交差点で信号待ちをしている時、何気なく、すぐ脇の電信柱に目をやりますと、この電信柱の根元の方、地面から30㎝付近のところに一枚のステッカーが貼ってあります。
そのステッカーには綺麗な楷書体で「犬の立ち小便無用」という文字が印刷されているのです。長期間にわたって犬が小便をすることによって鉄製の電柱が腐食して、倒壊したとの報道を観たことがありますが、この電柱はコンクリート製です。犬の小便ごときで倒壊するとは思えません。「きっと匂いを嫌がっているんだな」と納得しかけました。
だがちょっと待てよ。ふっと違和感が湧きあがりました。そして、もう一度しげしげと見降ろして考え込んでしまったのです。その違和感とはこのステッカーが貼ってある位置なのです。かなり地面近くであり、明らかに犬の目線なのです。
しかし、字が読めるほど教養のある犬ならば、電柱に小便などしないで公衆便所に行くでしょう。となると読ませようとする対象は犬の飼い主ということになります。しかしそうであるならば貼る位置は少なくとも地上1.5m辺りの方が有効ではないのでしょうか。
飼い主は手綱を引いて二足歩行するのが通常です。飼い主が犬と一緒に四つん這いで走っている姿など見かけたことがありません。百歩譲って、犬が臨戦態勢に入った時に飼い主の目に留まればよしとの判断かもしれませんが、排尿途中の犬を引きずるのは容易ではありません。とあれこれ推理するうちに信号が青に変りました。

細い路地の奥まで入り込んで御近所を往診していると、時々こんな摩訶不思議な光景に出くわして好奇心をくすぐられることがあります。往診も辛いばかりではないのです。

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