投稿日:2016年10月31日|カテゴリ:コラム

私たち地球の生命体の起源は原始的な海の中で発生した自己複製するアミノ酸だ。その始まりの始まりが宇宙から飛来したのか、海底火山からの噴出物に由来するのかは未だ定かではないが、こういったアミノ酸が地球に豊富に存在していた水の中で進化していって現在の地球上の生物群を形成した。

2008年のコラム、「原始のスープ」で、私たちの体の大半が水であり(全体重の50%~70%)、その中でも最も多い(体重の40%にも相当する)細胞内の水分の組成が太鼓の海水と似ていて、細胞内液は「内なる海」であると述べた。

私たちは身体の内部に「内なる海」を蓄えることによって海から陸上へと生息場所を広げていくという進化を遂げたと思われる。

つまり、生物が生き物として存在していくために「水」は必須の物質と言える。だから、地球外生命体を探査する研究において、生命体が存在する可能性のある天体候補を選定する際、水の存在が重要項目となっている。

地球に棲む我々にとって水はごくありふれた物質だが、宇宙規模で見ると、H2Oが液体として常在している天体はかなり稀なのだ。さらにこの水と言う分子は、実は他の物質にはほとんど見られない様々な奇妙な性質を持っている。すなわち、物質全般から見るとかなり異端児と言える。

この水の特異的な性質41項目を岡山大学理学部科学科理論科学教室の松本正和准教授が分かりやすくホームページに掲載しているのでそれを引用してみる。

 

1.融点が高い

2.沸点が高い

大気を構成する分子のなかで、常温で液体になる唯一の物質=分子量が小さいのに、分子間相互作用が強い。

3.臨界点温度が高い

4.表面張力が大きい

①土壌の保水能力が高い

②高い樹木でも水を吸い上げることが可能になる

5.粘度が大きい

6.気化熱が大きい

①蒸発する時にたくさん熱を奪う

②汗をかくことで体温調節

7.融ける時に収縮する/凍る時に膨張する→氷は水に浮く

8.摂氏4度で液体の密度が最大になる→氷は水に浮く水は4℃以下で膨張する

9.融ける時に第一隣接分子の数が増加する。

10.温度が上がるにつれて第一隣接分子の数が増加する。

11.圧力を加えると融点が下がる

12.圧力を加えると密度最大の温度が低くなる。

13.重水、三重水の物性は軽水と著しく異なる。

重水のほうが零点振動が小さい分、van der Waals半径が若干小さくなり、水素結合が強くなるため。

14.温度を下げると著しく粘度が増加する

15.(30℃以下で)圧力を加えると粘度が下がる

1000気圧で粘度が最小になり、それ以上加圧すると粘度が再び増加する

16.圧縮率が小さい(空隙が多いにもかかわらず!)

17.温度を上げると圧縮率が下がる(46.5℃以下で)

18.膨張率が小さい

19.負の膨張率(4℃以下)→水は4℃以下で膨張する

①このような物質はほかに存在しない。水で、アルコール温度計のような温度計を作ると、4度に近付くにしたがって目盛の間隔が小さくなり、4度以下では温度を下げるほど体積が増えはじめるので、目盛が重なってしまう!

②氷は温度を下げると収縮するが、-210℃以下で再び膨張に転じる

20.温度を上げると音速が速くなる(73℃まで)

21.比熱が大きい

①天ぷら油は水よりはるかに速く暖まる

②気候を穏やかにする

22.水は水蒸気や氷に比べて比熱が倍以上

①実際、ポテンシャルエネルギーの揺らぎ幅は、氷、水蒸気は小さく、水が大きい。

②氷、水蒸気では水素結合がつながりっぱなし、切れっぱなしなためだろう。

23.比熱が36℃で極大をもつ

24.NMR スピン格子緩和時間が低温で非常に小さい

25.溶質分子は密度や粘度などの物性にさまざまな影響を与える

26.水溶液は理想溶液でない

27.X線回折パターンの異常

28.過冷却水には2つの相と第二臨界点がある

水は過冷却領域(氷点以下)で、2種類の液体状態(水Iと水II)になる。水IIは水Iに比べ、密度が低く、粘性が非常に大きい。

29.水は容易に過冷却できるがガラス化しにくい。

30.非常にたくさんの氷の多形がある

①少なくとも10種類の安定相(Ih, II, III, V, VI, VII, VIII, IX, X, XI)と準安定相(Ic, IV, XII)がある。準安定相はほかにも見付かる可能性が高い。

②クラスレートハイドレート(氷包摂化合物)の構造も何種類もある。

③非晶質氷も2種類ある。

31.お湯は冷水よりも速く凍る(Mpemba効果)

①諸説ある

②おそらく、熱水中の微小な気泡が種になって、氷が生まれやすいのでは?

③硬水を沸騰させると、やかんの中に沈殿が析出し、残った湯は軟水になる。硬水をそのまま冷却すると、無機塩の濃縮がおこり、なかなか凍らないが、軟水はすぐ凍るから

32.水の屈折率は0℃直上で極大

33.非極性気体の溶解度は、温度を上げるにつれ減少し、ついで増加に転じる

34.低温では、水の自己拡散は密度・圧力を上げると増加する。

35.水の熱伝導率は130℃で最大になる

36.電場中でのH+/OH-イオンの移動度は異常に速い

37.融解熱は-17℃で極大

38.誘電率が大きい

水道の水に下敷きを近付けると曲げることができる(?)

39.高圧下では、圧力を加えるほど水分子はより拡散する。

40.電気伝導性は230℃で極大になり、より高温では減少する。

41暖かい水は冷たい水よりも長く振動する。

そのほかに

水は何でもよく解かす。塩のようなイオン性の物質も、有機物も(量の大小はあるが)溶ける←→有機溶媒には電解質は全く溶けない。水ほど多くの物質を溶かすことの出来る液体(溶媒)は他になく,とくに無機化合物をイオンに分解して溶かす力は抜群である。水はまた結晶水や水酸基の形で他の結晶や鉱物と結合することもできる。これはかなり安定であって,結晶水は200℃位,水酸基になったものは600℃位に加熱しないと分解しない。

これ以外にも、水特有とはいえないものの、不思議な性質はいろいろあるようだ。(白く凍った氷は、透き通った氷よりも速く融ける、など)

 

化学の専門家でない私にはよく理解できない項目も多々あるが、ここで言いたいのは水がいかに特殊な物質であるかということだ。

では何が水にこのような特殊性を与えているのかといえば、水分子を構成する水素結合によるところが大きい。

水素結合とは水分子同士を結びつけている力だ。難しいことは省くが水分子ができる時水素(H)の一つの電子と、酸素(O)の2つの電子とを共有し合う。これを共有結合と言う。共有結合によってH2Oができるのだが、酸素原子の方が水素原子よりも電気的な陰性度が高いために水分子の中の酸素は僅かにマイナスの電子を帯び、一方、水素原子は僅かにプラスの電気を帯びることになる。

こうして、分子としてのH2Oは電気的に中性に見えるが、実は酸素原子の部分はマイナスに、水素原子の部分はプラスに荷電しているのだ。

こうなると、H2O分子が隣接するとそれぞれの水素原子(+)と酸素原子(-)が引き合うことになる。これが水素結合。

この水素結合の力が非常に強いのだ。かなりエネルギーを与えないとこの結合は緩くならない。だから、融点や沸点が他の物質に比べて跳び抜けて高い。

1個の水分子は最大で4個 の水分子と水素結合で結びつくことができる。この際、正4面体の構造をとる。

液体の水では水分子は動きながらお互いに水素結合を作ったり、解消したりを繰り返している。1個の水分子に平均で3.6個の水分子と水素結合している。

これに対して氷ではしっかりと4個の水分子と水素結合をして正四面体を作る。さらにこの正四面体の構造が多数繋がって正六角形の筒のような穴の構造を作る。

この状態は液体の水よりも分子間の距離が長いので、結果として液体の水よりも個体の氷の方が液体の水よりも体積が大きくなる。これが固体が液体の上に浮くという奇妙な現象を起こしている原因なのだ。

因みに水素結合は水以外でも見られる。タンパク質が特定の物質と結合したり離れたりする際にも水素結合を利用している。DNAは水素結合で束ねられた2本の鎖を必要に応じて開いたり閉じたりして遺伝情報をRNAに写し取ったり、DNAを複製したりしている。水素結合がほどよい強さだから起きる現象だ。

ほどよい結合力をもつ水素結合によってつくられる奇妙な物質水と様々な有機化合物が現在の地球上には豊富に存在する。

なんでもよく溶かして、常温で液体である水があったからこそ、多種多様なアミノ酸やタンパク質を合成することができる。我が地球は物質界で特異な存在の水が液体の状態で大量に存在する稀な惑星だ。「水の惑星」と呼ばれる地球環境がなければ我々のような生命体[i]は生まれなかっただろう。

[i] わざわざ「我々のような」とことわった理由は、生命という概念を「我々に似たもの」と言う先入観を取り払って考えれば、宇宙には我々とは似ても似つかない生命体が数多く存在するのかもしれないからだ。

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