投稿日:2016年8月8日|カテゴリ:コラム

私たちは動物だ。おぎゃあと生まれた時から動き始める。2足歩行はお誕生を迎えた頃からになるとしても、生後8ヵ月頃からは這い這いで動き始める。いったい私たちは一生の間にどのくらいの距離を移動するのだろう。
1日平均5kmくらい歩いたとして、寿命を80年とすると、5×365×80=146,000kmとなり、地球3周半ほどの距離を移動することになる。
むろん行動的な人もいれば家の中に引きこもっている人もいるし、寿命にも差がある。また、幼小児期と晩年期はそれほど動けないから、この数字は相当アバウトなものだ。
それでも、人間は室内でも意外と歩いているので、かなりのインドア派であったとしても一生涯での移動距離が地球規模の距離になることは間違いない。
ところで、今言った移動距離はあくまで自力の徒歩あるいは疾走による移動距離だけだ。現代人はさらに自転車、自動車、鉄道、船、飛行機などの移動手段を使ってより長距離を移動する。
職業運転手の生涯移動距離はかなり伸びる。飛行機のパイロットに至っては生涯に地球を何十周もすることになるだろう。一日中パソコンの前で仕事をして休みの日はごろ寝をして過ごす人の何十倍も移動することになるはずだ。ライフスタイルの違いによる生涯移動距離がかなり大きいことが分かる。

しかしこんな違いなど実はとるに足らないのだ。私たちは地べたにへばりついているが、その地球は1日、24時間で1回転している。360°/24時間(日)だから角速度で見ればたいしたスピードではない。だから北極や南極の地表のスピードはたいしたことがないが、赤道付近のスピードは相当な速さになる。
赤道付近の地球の1周の距離は約4万kmだから、この付近の地表はおよそ時速1700kmで移動していることになる。
ボーイング747、ジャンボジェットの巡航速度はおおよそ900km/時だから、赤道直下に棲んでいる人たちは、居ながらにして、しかも生まれてから死ぬまでジャンボ機の2倍に近いスピードで動き回っているのだ。
東京は北緯35°付近に位置するので赤道ほどの速度ではないが、それでも時速1400kmほどで回転しているので、私もジャンボ機よりははるかに速いスピードで宇宙空間を移動しているのだ。
とするとなにもしなくても、私は1日で33,600km移動している。ということは、もし80歳まで生きたとすると生涯移動距離は981,120,000kmとなり、厳しい訓練を受けて宇宙パイロットにならなくても地球を2万5千周するくらいの距離の宇宙旅行をすることになる。

宇宙という言葉が出たのですでに気付かれた方もいると思うが、宇宙的視野に立つと地球は自転しながら1年かけて太陽の周りを1回転している(公転)。角速度としては360°/年=約1°/24時間(日)に過ぎないが、太陽から地球までの距離、すなわち回転半径が1天文単位(149,597,870km)と非常に長いので。地球は太陽を中心にして宇宙空間を時速10万km(秒速30km)で移動している。
宇宙ステーションに人員や物資を運搬するロケットの速度が秒速12km位だから、ソユーズの3倍弱の速度で移動している。私たちは地球に乗って、2006年にNASAが打ち上げた冥王星探査衛星ニューホライズンズの速度とほぼ同じスピードで移動しているのだ。
80年たつと約750億kmの旅をすることになる。もはや想像の域を超える速度であり、距離だ。でも、これで驚いていてはいけない。

太陽も地球を初め多くの惑星を引き連れて天の川銀河の中で回転運動をしている。この回転速度の測定はかなり難しい問題だった。なぜならば、天の川銀河の内部に位置する私たち太陽系人には直接的に外から天の川銀河を概観できないために、天の川銀河そのものの正しい大きさや形状を知ること自体が難しかったからである。
だが、最近我が国の国立天文台が4台の電波天文台のネットワークを使って天の川銀河の正確な測定に成功した。それによると、太陽から天の川銀河の中心までの距離は2万6100光年で、太陽系の場所での回転速度は240km/秒であることを突き止めた。
時速に換算するとおよそ2100万kmとなる。こうして太陽系は約2億年で銀河を1周しているらしい。
もちろん太陽系第三惑星の表面にへばりついている私たちも同じスピードで銀河内を回転している。80歳の寿命の人は銀河内で6000億kmも旅をすることになる。
どうだろう。こう考えてみると、ライフスタイルによる差なんてあって無きがごときものになってしまう。

私たちは宇宙空間の中を猛烈なスピードで飛んでいるのだが、普段の生活の中ではそのスピードをまったく感じられない。その理由は高校の物理で習った運動の第1法則、「慣性の法則」による。
運動力学から言って等速度運動をしている物体は静止している物体と等価だからである。外から力が加わってその速度が変化した時に初めて動いていたことを認識できる。
気持ちよく走っていた車が衝突した時に、その速度の大きさを思い知らされる。もし地球の自転が一瞬にして止まったとしたら、地球は壊滅状態になるだろう。

最近、巷では欝々するような出来事ばかりが起きている。そういう時、宇宙的な視点から日常を見直してみると、腹立たしいことがばかばかしく思えてくる。これが私の気分転換の一つだ。

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